2011/12シーズンのGS最終戦におけるディディエ・キュシュの最後の滑りは、今でも忘れることのできない印象的なシーンだった。ワールドカップでもっとも愛されたレーサーのひとり、キュシュが去ることで、ひとつのドアが閉じられ、そして今また新しいとびらが開く。2012/13シーズン、最強の布陣を揃えたHEADチームが、戦いの準備を整えたからだ。
昨シーズン、リンゼイ・ボンが総合優勝の、アクセル・ルンド・スビンダルが種目別優勝のクリスタルグローブを獲得した。さらにボンは、結果的にはわずかに及ばなかったものの、ワールドカップポイントの最高記録である2000ポイントの更新に挑み、またキュシュは世界で最も恐ろしいと言われるキッツビューエルのダウンヒルで優勝。それはまさに素晴らしい成果であった。
そのキュシュとアニャ・パーソンは輝かしいレースキャリアに終止符を打ち引退したが、一方でHEADレベルズには新しいメンバーが加わった。ベアト・フォイツ、ゲオルク・シュトライトベルガー。新しいシーズンはこれまで以上に希望に満ちあふれることだろう。
スイスのスター、ベアト・フォイツは昨シーズンの終わりにHEADとの契約を結んだ。『HAEDチームの伝統と強さは、私にとっての大きな力となってくれるだろう』 とフォイツは語る。『目標は総合優勝。2位となることは考えていない!』『HEADチームに入ったからには、チームで最高の成績をめざす』 力強く言い切る。
『ジュリア・マンキューソは、チームにとっても大きな武器となるだろう』 というのは、フランツ・クランマーだ。『彼女は、まだまだ進化するはずだ』 とかつての滑降王は付け加える。マンキューソはあらゆる面でとてもユニークな選手だ。この夏のトレーニングにおける彼女のテーマは、呼吸法。スキーで滑走中にいかに呼吸するかを徹底的に考えたという。『この夏はいつも以上にピラティスを取り入れ、また友人に勧められてフリーダイビングにも挑戦した』
またオーストリア選手としてはゲオルク・シュトライトベルガーがチームに加入した。彼は、高速系に強いHEADチームに加わることで、とても大きな刺激を受けているという。簡単なことではないのはわかっているが、今シーズンの目標はシュラドミング世界選手権での優勝に設定している。
昨シーズンの主役がリンゼイ・ボンであったということに異論のある人はいないだろう。数多くのレースで優勝し、最多ワールドカップポイントの記録ももう少しで更新できるほどの大活躍だった。もうすぐ始まる新しいシーズンに、彼女は新しいマテリアルでどんな活躍を見せるのだろうか。『HEADは、あらかじめテストを繰り返して準備をしていてくれたので、新しいマテリアルに変えるのに苦労はしなかった。だからいつも通りにシーズンの準備をすすめることができたし、滑りの次元をまた1ステップ上げることができると思う』
昨シーズンはディフェンディングチャンピオンとして戦い、結果的にその座をリンゼイ・ボンに明け渡さなければならなかったマリア・ホッフル・リーシュは、今季ボンを追撃するハンターの立場となった。彼女は、夏の間ニュージーランドとチリへの遠征を行ない、充分なトレーニングを積んだ。さらに新しいサービスマンと、フィットネストレーナーと契約。彼らの強力なサポートを受けて2012/13シーズンへと立ち向かう。また「Geradeaus(ストレート・直線という意)」と題した著書を発刊し、私生活でも充実している。コンディション面での不安なくとても健康な状態で開幕を迎えたホッフル・リーシュは、新しいスキーのレギュレーションにも楽観的。今季もすべての力をレースにぶつける覚悟だ。
エリザベート(リズ)・ゲルグルはとてもリラックスしてシーズン開幕を迎えた。彼女の目標のひとつは、シュラドミング世界選手権の前回大会(ガルミッシュ・パルテンキルヘン)で獲得したふたつのタイトル(ダウンヒルとスーパーG)を防衛することだ。地元開催ということでファンからの熱いサポートを受けることだろう。彼女は新しいマテリアルを完全に自分のものにするため、これまで以上にフリースキーイングに力を入れたという。最新の注意を払って慎重に準備を進めてきたので、何の不安もなく開幕を迎えることができたと語る。
アナ・フェニンガーは、スピードに対する熱い情熱を燃やしている。すでにダウンヒル、スーパーGでのトップクラスに成長し、前回の世界選手権ではスーパーコンバインドのチャンピオンにもなった彼女は、スピードに対する強さをさらに高めるため、この夏オートバイでの高速走行を意欲的に行なったという。また、フィットネスやジムナスティック的なトレーニングにも力を入れ、今では、バク転、バク宙、ハンドスプリングなどは軽々と成功させるほどになった。こうしたハードトレーニングによって、新しい用具を乗りこなす力をつけた彼女は、2012/13シーズンの開幕を前に自信と興奮に満ちあふれている。
チェーティル・ヤンスルードにとって昨シーズンのもっともエキサイティングな週末は、母国ノルウェーのクビットフェルでのレースだった。ジャイアント・スラロームのスペシャリストとして知られていた彼だが、この凱旋レースでスーパーGとダウンヒルでの強さも証明した。新しいレギュレーションの用具がもたらす変化について彼は 『乗りこなすためには技術的な適応力が必要になってくるだろう』 と語る。そしてこうした変化に対しても彼は自信を感じており 『今季は少なくとも3つの種目でメダルを狙えると思う』 という。ヤンスルードはシーズンの開幕が待ち遠しくて仕方がないようだ。
マルセル・マティスは、昨シーズンのバンスコのジャイアント・スラロームで突然覚醒した。劇的な2本目の追い上げで3位に浮上すると、シュラドミングの最終戦でも再び3位入賞。彼の父(HEADチームのサービスマン)は、息子のスキーのチューンナップに集中しており、このオーストリアの新鋭にはますます期待が集まっている。彼の目標は明確だ。『ただ速く滑ること!そして勝ちたい!』
テッド・リゲティは自分がHEADチームの技術系エースであるという自覚を持っている。彼は今年ワールドカップ総合のタイトルを狙っている。現在の彼は、ジャイアント・スラロームはもちろんスーパーGでも力を持っているが、総合優勝に近づくためにはもともと得意としていたスラロームでの向上が鍵となるだろうという。自信を強く持ちつねに良い滑りをすること。そして総合タイトルに向かって挑戦していきたいと意欲的に語った。
スキーレーサーとして、その生き方にいつも注目を集めるボディ・ミラー。このオフシーズンの間、彼は膝の手術をし結婚もして開幕を迎えた。今季の目標はダウンヒルの種目別優勝。そのサクセスストーリーにさらに栄冠を加えるために闘志を燃やす。彼のスキーを準備する新しいサービスマンを得て、ミラーは2012/13シーズンの開幕を楽しみにしているという。
アクセル・ルンド・スビンダルは昨シーズン、スーパーGの種目別タイトルを獲得し、ダウンヒルでも好調時の力を取り戻した。彼は新しいレギュレーションのスキーが、滑りにどのように影響するか懸念を持っているが、夏に行なった質の高いトレーニングによって克服できると信じている。
どのスキーを使うか、レーサーにとって契約更改の時期になるといつも大きな問題となる。それがレーサーとしてのキャリアに大きく影響するからだ。チェーティル・ヤンスルードは昨シーズン終わりに新たな2年間の契約にサインした。『HEADチームでのこれまでの2年間はとても満足できるものだった。プロフェッショナルなスタッフと最高の雰囲気。誰もが自分の仕事に真剣に取り組み、最高のレース部門を作り上げている』